【イベントレポート】LIFULL CTOが考える、エンジニア組織作りと採用戦略

エンジニア採用が難しさを増す昨今、エンジニアが働きやすい環境を整備すると同時に、自社の取り組みを社外に発信する人事部門とエンジニア組織の密なコミュニケーションも含めた、社内外両輪の取り組みが重要となっている。

2024年10月25日にオンラインにて開催された「Acaric Summit Premium 人事・採用EXPO」にて、TECH PLAY Branding事業責任者が登壇。特別ゲストとして、株式会社LIFULL(以下、LIFULL)にてエンジニア組織を統括し、技術力向上や組織力強化に注力している長沢翼氏をお呼びし、LIFULLでの事例やエンジニア採用の取り組みなどを語っていただいた。

本レポートでは、多数の参加者から好評をいただいたイベントの内容をお届けする。

エンジニア採用にブランディングが必要な理由(TECH PLAY Branding 武藤)

武藤 竜耶

パーソルイノベーション株式会社
TECH PLAY Branding
事業責任者


エンジニアが成長できる組織作りと、情報発信の両輪を回すことが重要

最初に登壇したのは、エンジニア採用に長年に渡り携わってきており、普段からエンジニア組織のリーダーと話す機会も多い、当社 パーソルイノベーションの武藤竜耶。現在はTECH PLAY Brandingの事業責任者として、エンジニア向け採用ブランディングの立ち上げ支援や内製化支援等を行っている。

武藤はまず、昨今、エンジニアの採用がいかに難しいかをデータで示した。他の職種と比べると明らかに採用倍率が高く、2022年11月以降は10倍以上で継続している。

エンジニアは多くの企業からスカウトされており、その中から自分が働きたい、魅力的だと感じる組織や企業を選ぶことができるのが現状だ。
エンジニアから見て魅力的に感じられる組織を作ることが、企業側がITエンジニア採用を成功に導くポイントだと言えるだろう。

エンジニアが重視している点

では、具体的にエンジニアはどのような点を重視しているのか。
武藤は、パーソル総合研究所が1,000名以上のエンジニアに実施したインタビューの結果を示すと共に、次のように解説した。

「安定感や知名度はもちろんですが、スライドの赤色部分。技術者として成長できる環境であるかどうかをエンジニアは重視しています」(武藤)

さらにはマッキンゼーのレポートを引用し、エンジニアは開発者としてスライドで示した4つの要素を求めていることを紹介。
「このような環境をエンジニア組織と人事が一緒になって作っていく必要がありますし、人事は状況を理解しておく必要もあります」
と続けた。

エンジニア採用における情報発信

もう一つのキーワード、情報発信についても解説した。
TECH PLAYでは、『採用ブランディングとは、採用ターゲットに「自社らしさ」を正しく伝える取り組みである』と定義している。

自社らしさは社外への発信だけでなく、社内への浸透、技術組織などにもブレイクダウンしていくことが重要だ。

具体的には、スライドに示した通り、ミッションやビジョンなどの「理念の一貫性」、プロジェクトや技術の発信・発言、計画・行動などの「行動の一貫性」、ロゴマークやキービジュアルなどの「視覚の一貫性」で、自社らしさを伝えることである。

武藤:「社内で働いているエンジニアの方々にとっていい環境を作ることで、エンジニアのスキルアップや組織のレベルアップなどにつながり、技術者としても成長していけるような経験を積める環境で働けることが伝わることで採用の強化にも繋がっていきます。そうした取り組みを社外に伝えていくことで、事業部の技術ブランディングやエンジニアコミュニティへの還元などで事業部にもメリットが広がります。」

こうした取り組みが結果的に採用強化にもなり、採用ブランディングのメリットにもなっていくということだ。

情報発信の手段としては、採用ターゲットの認知フェーズによって手段や手法が異なることも紹介した。
例えば、自社に対する認知がない層へのアプローチ手段として技術イベントやカンファレンス等のイベントでの情報発信が効果的となる。

このようにエンジニアの採用においては、組織作りでの取り組みで構築された自社らしさを、様々な手法で発信していく。
「組織作りと情報発信の両輪を回すことが重要です」と武藤は述べ、セッションを閉めた。

LIFULL CTOが考える エンジニア組織作りと採用戦略(LIFULL 長沢氏)

長沢 翼氏

株式会社LIFULL
執行役員
テクノロジー本部長 兼 LIFULL HOME'S 事業本部副本部長


続いて登壇したのは、LIFULLの長沢翼氏だ。
新卒でLIFULLに入社して以降、日本最大級の不動産・住宅情報サービスの「LIFULL HOME’S」の各種サービスや基盤の開発、事業系システムのクラウド移行などに携わった後、2017年にCTOに就任している。

現在は事業副本部長も兼任し、国内外のエンジニア組織の統括並びに、生成AI関連の専門組織を構築し業務を効率化する取り組みなど、多岐に渡って活躍している。

LIFULLではLIFULL HOME’S以外にも、地方の空き家を紹介する地方創生関連のサービスや、生成AI関連のサービスにも注力しており、グローバル全社員1,753名のうち、エンジニアの数は250〜300名になる。

また、LIFULLでは「利他主義」を社是として掲げている。
採用に関しても利他の気持ちを持っていることが強い基準だと長沢氏は語る。
「目の前の人を幸せにすることで、自分も幸せになりたい。このような気持ちを持っているかどうかを面接で厳しく見ています」と、採用における大前提を述べた。

長沢氏は、エンジニアの組織概要についても紹介した。
LIFULLは様々なサービス郡からなるLIFULL HOME’Sや、生成AI部門を担当するLIFULL HOME’S事業本部、社内のインフラを担当するテクノロジー本部、各種研究を行うR&D部門、新規事業担当部門がある。

そして、これらの部門に横断的にベトナムやマレーシアの海外拠点が関わる仕組みとなっている。

「開発者体験の向上」と「採用戦略」を足し算ではなく掛け算で進める

「エンジニアの組織・採用で意識していることは、『開発者体験』と 『採用戦略』の大きく2つである」と、語る長沢氏。
具体的な施策や効果を示すと共に、「足し算ではなく掛け算で進めていくことが重要で、結果として倍々に効果を発揮していくと考えています」と述べ、それぞれのテーマについて、詳しく紹介していった。

開発者体験の向上

「開発者体験の向上」では、大きく4つのポイントを紹介した。

まずは、フィロソフィーの策定だ。策定した理由を、長沢氏は次のように語った。

「LIFULLのエンジニアとは、どういうものなのか。私がCTOに就任した7年ほど前、このような声が社内外からよく聞かれていましたが、みんなが同じ言葉で語ることができていませんでした」(長沢氏)

そこで、エンジニアマネージャーたちと議論して策定されたのが、「エンジニアとして経営をリードする」というフィロソフィーである。4つのポイントを見ても分かるように、自発的にものづくりをしていくエンジニア像が伝わってくる。

一方で「策定するのは簡単ですが、浸透させていくのが難しい」と、長沢氏。
そこで年に4回、四半期の期間で活躍した年次も様々なエンジニアを各回3〜4名ほど選別し、どのような意識で行動していたかを発表してもらい、フィロソフィーの理解度を深めてもらうよう努めた。

続いては、組織構造の変革である。
以前はいわゆる縦割り、事業本部制であったため、部門によってエンジニアはもちろん、デザイナーなど他の職種の質や数に違いが生じていた。
一方で、サービスは先述したように横断的であった。

そこで、職能別の組織構造に変革すると共に、プロダクトマネージャーやテックリードをそれぞれのマーケットに配置することで、技術的視点と事業・経営視点のバランスを両立させ、的確にプロジェクトが進むような体制を整えた。

ただし、「職能別の組織に変えることが重要ではありません。組織論に正解はなく、その時々の課題を見極め、都度変えていくことが大事だと考えています」と、付け加えた。

続いては3つ目、システム健全化に向けて、全エンジニアが業務の10%の時間を、技術的負債返済に関する業務に取り組むこととした。

ビジネス視点から見ても生産性に直結することで実施した施策だが、「一人ひとりが当たり前に技術負債に取り組む意識の醸成並びに、会社の文化にしたかった」と長沢氏は意図を述べた。

そのために、チームの1人が技術的負債に関する業務を100%担うといった対応はNGとしたとのこと。

4つ目は「可視化とプロセスの標準化」だ。開発工程における各プロセスの状況を可視化すると共に、得たデータを元に標準化も含めた改善策を、毎週回すサイクルで実施していった。

この取り組みを始めてから約3年。テストデータの整備などプロセスの標準ルールが定まっていき、開発生産性は1.5倍に向上した。

採用戦略

続いては採用戦略である。
こちらのテーマにおいても長沢氏は「プロセスの改善」「母数の拡大」と2つが重要であり、こちらも掛け算で取り組むことがポイントだと説明した。

プロセスの拡大

まずはプロセスの改善に関する取り組みを紹介した。
現場のエンジニアが率先して採用に取り組む。そのような組織、並びに文化に変えていくような施策を行った。
そして、毎月の採用成果を全体の前で発表すると共に、携わったメンバーを称賛することとした。

さらには応募から採用に至るまでの各プロセスをポイント化し、過去のデータから採用決定に至るまでに必要なポイント数を算出。
そのポイント数を各部門のマネージャーなどに共有することで、採用活動における基準としてもらった。

このような取り組みを行った結果、「説明会を開催したい」「他の媒体を使いたい」など、エンジニア組織から積極的に採用活動に関するコミュニケーションが、人事に上がってきたという。
「自分ごととして捉えるようになっていきました」と、長沢氏は手応えを口にした。

母数の拡大

続いては、母数拡大について語られた。
こちらについては武藤も語ったように、社内外に向けたブランディングが重要であることを、長沢氏も繰り返した。
具体的には、各種関連団体などが発表している、実際にエンジニアが評価している企業を参考にしながら取り組んでいるということだ。

具体的な取り組みも紹介された。


まずは、テックブログの継続的な執筆・配信である。
テックブログの執筆においても浸透させるために、先に紹介したポイント化をここでも採用している。

母数の目標値を定めると共に、実現までに必要なポイント数を算出することで、安定的にブログを各部門が執筆するようになり、現在は週一のペースで様々な部門がブログを配信しているという。

さらには、自社で勉強会を実施しており、「勉強会のテーマは採用したい属性のエンジニアにしています」と、工夫なども語られた。

技術系イベントなどにはおいては母数獲得以外、既存メンバーからも新しい技術に触れることで成長していくことができると、まさに社内のブランディング効果があることも紹介された。

エンジニア採用における重要なポイント

長沢氏は、エンジニア採用における重要なポイントを改めて述べ、セッションをまとめた。

「各マネージャーにしっかり業務としてコミットメントしてもらうためにも、CTOもしくは技術組織のトップのコミットメントは絶対必要です。また、人事とCTOなどエンジニア組織がしっかりと連携していることも大事です」(長沢氏)

【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答

セッション後は、イベント参加者からの質問に長沢氏が回答した。
抜粋して紹介する。

Q.エンジニア・人事両サイドの業務の棲み分けについてはどのようにしているのか?

採用人事は主に、エージェントや各種採用媒体、候補者とのコミュニケーション・日程調整などを行います。
一方、エンジニアサイドは部門の募集要項を作成することや実際の面接、また部門の技術やチームの雰囲気を伝えることを担当しています。

Q.人事がエンジニア組織を理解するためのコミュニケーションについては?

日頃からのコミュニケーションが大事だと思います。
というのも当社の人事はエンジニアが集まる会やイベントに頻繁に顔を出し、何をしているのか、どんな人が参加しているのかを理解してくれようとしているからです。
このような取り組みを継続していくことで、自然と理解していくのではないかと思います。

Q.エンジニアのスキルについて

LIFULLではグレード制度があり、それぞれのグレードでどのようなスキルを持っているべきかを、一覧化しています。この制度を元に育成や評価も行っています。

Q.エンジニア自身が採用していくという考えが浸透するまでの期間はどのくらいかかったのか?

最初はスコアで管理されていて窮屈という声もありましたが、なぜ採用活動が大事かをひたすら草の根活動的に伝えていきました。
次第に数値を元に採用ができている成果が出てきたので理解が広まり、1年ほどで浸透したと思います。

Q.採用基準について企業理念を重視しているということだが、スキル部分とのバランスをどう考えているのか?

LIFULLでは採用基準の順番が明確に決まっています。
一番が理念にフィットしているかどうか。次にカルチャー、ポテンシャルと続き、スキルは最後です。
つまり、スキルがいかに高くても企業理念への共感がないと、採用には至りません。
正直、めちゃくちゃ優秀だけれど、企業理念への共感がない人を採用しないのは残念だとは思います。
ただ、長期的に見た時、会社の文化を作るのは人であるので大事にしています。

まとめ

本記事では、エンジニア採用における採用ブランディングの必要性と、LIFULL CTOが考えるエンジニア組織作りと採用戦略についてのイベント内容をお届けした。

TECH PLAY Brandingでは、エンジニア採用の課題解決のヒントになるようなイベント/セミナーを定期的に開催している。
過去に開催したセミナーのアーカイブ動画も多く配信しており、すべて無料で視聴が可能。興味を持っていただけたら、下記よりぜひチェックいただきたい。

>>> TECH PLAY Brandingが開催するセミナーを見てみる(無料)

この記事を書いた人

TECH PLAY BUSINESS

パーソルイノベーション株式会社が運営するTECH PLAY。約23万人※のテクノロジー人材を会員にもつITイベント情報サービスの運営、テクノロジー関連イベントの企画立案、法人向けDX人材・エンジニア育成支援サービスです。テクノロジー人材のエンパワーメントと企業のDX化の成功をサポートします。※2023年5月時点

よく読まれている記事

\「3分でわかるTECH PLAY」資料ダウンロード/
事例を交えて独自のソリューションをご紹介します。

【無料お役立ち資料】エンジニア向け採用ブランディングがわかる!5点セット

よく読まれている記事

「3分でわかるTECH PLAY」
資料ダウンロードエンジニア採用の課題を解決するソリューション・事例を豊富に掲載